書家 馬渕幽明

 近代美術館のベーコン展へ行く。
 なかで、土方巽の舞踏符が展示してあり、ビデオが流されていたのに驚いた。彼がベーコンの絵画に触発されたというのだ。
 ビデオを見ていて、彼の舞踏の技術の一端が分かって嬉しかった。緩慢に見えるその動きの中で、緊張が続いているのは、能などに見る日本の芸能と同じものだ。
 
 会場を出てお茶を飲んでいると、京都から電話が来た。
 書家の馬渕幽明氏が亡くなった知らせだった。
 氏は幼少から書に親しんでいたので、それを身体的に理解していて、理屈に走る事がなかった。
 それで、素直に書についてやりとりをすることができたのだが、もう酒を飲みながら、あのような会話を楽しむ事はできなくなった。寂しい限りだ。
 

 
 幽明氏に金文で彫ってもらった「曇華庵」印